hhc理念に共感──障がい者の目線と知的財産のプロの目線でエーザイを支える
知的財産部の加藤 大悟。弁理士と薬剤師の資格を有し、創薬開発プロジェクトの知財担当や特許出願業務に従事しています。大学時代の脊髄損傷による四肢障がいがありながら、2010年の入社以来、知財のプロとして活躍してきた加藤。知財業務のやりがいと、エーザイの働きやすさ、企業文化の魅力について語ります。
知的財産担当として創薬の研究開発プロジェクトに参加し、特許出願業務を担当
知的財産部の主なミッションは、エーザイが独自に開発した技術や製品を特許権で保護し、有効活用することです。それによって自社が持続的に成長発展し、患者様に対して安定して医薬品をお届けすることを目指しています。
知財業務の中でも、私は新しい医薬品を研究開発するプロジェクトの知財担当を主に務めています。法律が遵守できているか、他社の特許を侵害していないかを確認するなど、研究者が研究開発に集中できるようサポートするのが役割です。関連して特許出願業務も担当し、特許庁に出願するに当たって研究成果を吟味し、特許戦略を立案した上で、明細書という発明を説明する書類を作成しています。出願後は、特許庁からの審査結果に対し、適切に特許が取得できるよう対応を行っています。
特許は医薬品ビジネスの基盤の一つだと考えています。実際、医薬品を保護する特許権が切れるとジェネリック医薬品が市場に参入し、新薬を開発する製薬企業の事業・売上に大きな影響を及ぼしているからです。特許権による適切な保護がなければ、次の新薬を開発するために必要な事業収益を確保することができず、結果として、患者様に新たな医薬品を届けることが難しく、医薬品ビジネスの持続性に大きく影響を与えるものと考えています。
知財業務は、コンプライアンスを遵守する、法律をベースとした専門業務であるため、世界各国の特許法改正や特許制度の変更、新しい裁判例による法解釈の変更など、知識のアップデートが欠かせません。また、法律の知識に加えて、研究成果や発明を理解するために、新しい創薬技術を含め、医薬品の研究開発に関わる技術的な知識、さらに、特許権の保護の対象である医薬品の薬事規制や医薬品ビジネス活動の理解も必要です。
研究者が見出した成果を貴重な社の資産として取り扱い、将来のビジネスに影響を与える知財業務には大きなプレッシャーがともないますが、だからこそやりがいも感じています。さらに、特許出願業務では、最先端技術に触れる機会もあるため、非常におもしろい仕事だと思っています。
学生時代に脊髄を損傷。患者様、障がい者と同じ目線に立つhhc理念に共感し入社
私の実家は漢方薬の原材料となる薬草の栽培・販売を生業としていて、私も時折山に入って薬草を採取する手伝いをしていました。学問として薬学に興味を持ち、薬学部へ進学したのもその影響があるかもしれません。
薬学部4年生の時に川遊びの事故で脊髄を損傷し、両手両足がまひしたことで、人生が一変しました。脇から下の感覚を失い、歩くことや指を動かすことができず、本を読むなど日常生活の基本的な動作さえ難しい現実と直面し、深い絶望に打ちひしがれていたのを覚えています。
そんな中、支えとなったのが、家族のサポートや見舞いに来てくれる友人などの寄り添ってくれる人たちの存在でした。時間の経過と共に、この状態が当たり前になってくると、徐々に観念してありのままの自分を受け入れられるように。入院は8カ月におよびましたが、幸い薬学部の単位は足りていたため、退院直後に卒業することができました。
その後、薬剤師の国家試験に取り組み、卒業の翌年に晴れて薬剤師資格を取得しました。薬学部時代の研究室の教授に就職の相談を持ちかけたところ、勧められたのが弁理士の仕事です。弁理士の資格を取って知的財産に関する仕事に就けば、専門知識を活かしながら無理なくデスクワークができるだろうという考えでした。助言を受けてすぐに弁理士の受験勉強を開始。翌年に資格を取得しました。
就職活動では、製薬メーカーの知財業務を第一志望としていました。薬学の知識を活かせる上、障がいのある人々の苦悩と困難を深く理解しながら、病気や障がいに苦しむ人々を支援できる仕事に就きたいと考えたからです。また、私が受傷した脊髄損傷は未だに有効な治療法がないため、有効な治療法や薬が存在することの重要性をあらためて認識したことも理由でした。
製薬メーカーの中でもエーザイを選んだ決め手は、患者様中心のビジネス理念であるhhcに深く共感したことです。エーザイでは、患者様と同じ空間で同じ時間を体験する「共同化」を通じて得られた気づきや学びを組織で共有し、具体的な行動に役立てる「hhc活動」を推進しています。
私は薬学部にいたころから、病気や障がいの治療を視野に入れて研究しているつもりでいましたが、当事者となったことで初めて障がい者の不便さや困難を深く理解するようになりました。ニュース記事やSNSなどを通じて得た情報で障がいについて知るのは限界があります。自身の経験から共同化の重要性を身をもって感じていた私にとって、エーザイの掲げる理念と取り組みは非常に魅力的でした。
同じ目線に立って障がいに配慮し、能力に応じて仕事を任せるエーザイならではの風土
2010年にエーザイに入社しましたが、入社当初はうまく職場に対応できるか不安を抱えていました。パソコン作業は時間をかければひとりでできますが、重いドアを開けたり、落ちたものを拾ったり、コピー機で書類印刷したりすることはできません。周りの方に力を借りる必要のある場面が1日に何回もあります。
しかし、入社以来13年間、こうしたお願いごとに対してネガティブな反応をされたことは一度もありません。それどころか、どうすれば私がストレスなく仕事ができるか、部署の皆さんが私と同じ目線に立って考えてくれていると感じます。
ウォーターサーバーが導入されたときもそうでした。私は脊髄損傷の影響で汗をかかないため、とくに夏場には水を頻繁に摂取する必要があります。ですが、私には冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出すことができませんし、水を汲みに行くことも簡単ではありません。そこで、部署の方がウォーターサーバーを設置してはどうかと働きかけてくれたのです。しかも、私が操作しやすいタイプをと、ウォーターサーバーの展示場に一緒に足を運んで選ぶのを助けてくれました。
同じ部署の方だけではありません。社内でひとりで困っていると、面識のない方が声をかけてくれることもあります。日頃からhhc活動で患者様や障がい者とコミュニケーションを取っている方が多いため、当社には障がい者目線を持って接することができる方がとても多いと感じます。
一方、業務上では障がい者だからといって色めがねで見られることはありません。能力に応じて仕事を任され、正当に評価してもらっていると思います。
たとえば、私が入社して5年目の時のことです。当時、特許出願業務を始めたばかりでしたが、他社との共同研究に関する特許を出願する難易度の高い案件を任されました。
共同研究を行ったのは外国の製薬メーカーで、自社と相手方で研究成果の利用方針が異なったため、相手方の方針をそのまま受け入れると、自社の開発や成果の利用に支障をきたすおそれがありました。
この課題を解決するために、まず相手方が譲れない点を理解した上で、社内の関係者と綿密に調整を行いました。その後、粘り強く協議を重ねた結果、自社の利益を保護するための契約を別途締結し、同時に相手方の立場も尊重するかたちで、双方の目的に合致した内容の特許出願を行うことでまとまりました。上司のサポートもありましたが、初期段階でこのような難しい案件に取り組めたことは、その後のキャリアにおいて大きな糧となりました。
相手への感謝と尊敬する気持ちを胸に、良い新薬を1日でも早く患者様のもとへ
私には、仕事でもプライベートでも心がけていることがあります。それは、常に相手への感謝と尊敬する気持ちを忘れないことです。
障がいを負って以来、私は家族や友人などに物理的にも精神的にも支えられながら生きていることを実感しています。自分ひとりで生きているわけではないことに気づかされ、周りの人に感謝と尊敬する気持ちを欠かさないようになりました。
仕事に対しても同様の気持ちで臨んできました。相手を尊重しよう、理解しようという心がけが、良い関係性を築くことに役立っていると思います。
今後も、知財のプロフェッショナルとして知財業務に携わっていきたいと考えています。患者様にとっての希望となるような薬を1日でも早く届けられるよう、新薬の研究開発をサポートし続けるつもりです。
直近の大きなミッションとしては、バイオ医薬に関する特許実務が挙げられるでしょうか。近年、製薬業界全体で開発の中心が低分子医薬からバイオ医薬にシフトする中で、エーザイもバイオ医薬の開発を進めています。従来の低分子医薬とバイオ医薬では特許実務においても相違する点が多いため、現在進行中のプロジェクトで特許出願の経験を積んで、当社にとって望ましいバイオ医薬の特許戦略を構築していきたいと考えているところです。
私は、当社のhhc理念に共感して入社しましたが、同じように患者様の気持ちを知り、それを起点に患者様の目線で研究開発に携わりたいと考えている方と一緒に働けたらと思っています。私も経営職(管理職)として若手を育成する立場になりました。すべてのメンバーから等しく意見を聞き出すことの難しさを痛感するなど、リーダーとしての振る舞い方はいまも勉強中ですが、私をここまで導いてくれた先輩たちのように、これからも誠実に一つひとつ仕事を遂行し、若手に良い影響を与えていきたいと思っています。
※ 取材内容は2023年11月時点のものです