創薬で多くの命を救いたい──ペプチド創薬の技術開発に取り組む、若き研究者
2020年に新卒入社した成瀬 公人は、ペプチド創薬全般をまとめるリーダーとして活躍しています。現在は主にundruggable targetに対するペプチド取得を目指し研究を進めています。彼を突き動かすのは「創薬によって、多くの命を救いたい」という想い。これまでのキャリアと、今後の展望について語ります。
「ペプチド創薬」で、治らないといわれる病気にアプローチ
私が所属するエマージングモダリティジェネレーション部では、創薬の初期探索から開発後期まで、いろいろなステージのプロジェクトに対して技術的なサポートをしています。さらに組織名にもあるように「モダリティ」をキーワードに、各疾患で狙うべき創薬ターゲットが提示された段階で、低分子、ペプチド、抗体などの創薬手段であるモダリティを、ターゲットに対してもっとも効果的と考えられるものを選択することがエマージングモダリティジェネレーション部のミッションの1つです。その中でも私は、創薬の最初のステップを進めるための「初期ヒット化合物」を、ペプチドを使って見つける技術開発に取り組んでいます。
今担当しているペプチドのプロジェクトは、エーザイが注力する3大領域である、アルツハイマー病(AD)領域、オンコロジー領域、グローバルヘルス領域のすべてにわたっています。
まずは、現在もっとも注力しているオンコロジー領域です。従来の手段では創薬が難しいようなundruggable targetに対して、新しい技術であるペプチドを適用してヒット化合物を見つけるのがミッションです。
そして、グローバルヘルス領域。「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)」 などに対して創薬をすることで発展途上国の方々を助ける研究、そして昨今の新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックに対応する研究も行っています。
最後に、AD領域。最近ニュースに多く取り上げられている認知症治療薬をはじめ、新薬のための研究を進めています。
医薬品には「抗体医薬品」と「低分子医薬品」の2大巨頭がありますが、ペプチドはこれら2つの中間あたりに位置する化合物。分子の大きさ的にもちょうど真ん中で、両方の良い点を持ち合わせています。つまりペプチドによって、これまでの創薬ではアプローチできなかった疾患をターゲットにできるかもしれないのです。治らないといわれてきた病気に、直接作用するような創薬ができるかもしれない。ペプチドはものすごく可能性にあふれているんです。
研究を進める原動力は、患者様の存在
私が研究の道を志したのは、父親の影響でした。父が科学の先生をやっていたため、小さいころから実験や研究に触れる機会が多く、自然と大学では研究の道に進もうと考えていました。
創薬の世界を選んだきっかけは、高校生の時にテレビで見たワクチン開発者のインタビューでした。たった1つのワクチンで世界中の多くの人命を救うことができる。日常に平穏を与えられる。このような創薬のドラマを「ファーマドリーム」と言いますが、私はまさに夢を感じ、薬の開発はすばらしいなと感動したんです。
そこで、大学では薬学部の創薬を学ぶコースに進学。座学で有機化学や生物学、薬学などを学び、中でも惹かれた「生体分子であるペプチドを扱う有機化学」の分野に研究対象を絞りました。大学院に進んでからも、ペプチドにフォーカスして学びを深めます。
ペプチドの可能性をもっと追求したくて、就職活動では製薬会社への就職を考えました。数ある製薬会社の中で当社に入社を決めた理由は、3点あります。
1点目は、「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を理念に掲げ、患者様第一という姿勢を示していることに共感したから。2点目は、AD領域とオンコロジー領域にフォーカスしていることです。とくにオンコロジー領域ではペプチド研究が注目されているので、いい研究ができると思ったんです。そして3点目は、もともと興味を持っていた感染症を含む世界中のさまざまな病気に対してアプローチしているためです。
入社後、理念を実感した経験があります。かつて指定難病のSLEの患者様に、オンラインで直接お話を聞かせてもらったことです。患者様のお話を聞いたことで、自分のやっている研究はただの研究ではなくて、届ける先がちゃんとあることを再認識した経験でした。患者様の存在を思い浮かべると、研究の失敗・成功に一喜一憂するのではなく、一刻も早く進めなくてはと思います。
チャンスをつかみ、ペプチド研究のプロジェクトのリーダーに
入社してからは、自信の専門であるペプチドケミストリーとは異なり、計算科学にも携わりながらメディシナルケミストリーと呼ばれる探索合成の分野に取り組みました。入社当初は社内でのペプチドの注目度が低く、業務として直接ペプチドに関わることはありませんでしたが、学会参加や論文紹介などで自らペプチドに関する情報収集を欠かさず続け、発信していました。これによって「ペプチドといえば成瀬だ」と周囲に思ってもらえるようになり、新型コロナウイルス感染症に対するペプチド創薬の研究プロジェクトが発足した時には担当させてもらうことに。チャンスをものにすることができました。
最初は数人ほどで始まった、ペプチド研究プロジェクトの立ち上げ。私が探索合成のリーダーとして進めていくことになりました。ただ、当時はまだ会社としてペプチド研究にほとんど着手していなかったタイミング。社内でのほとんどゼロからのペプチド合成技術の確立とプロジェクト推進のための化合物合成を両立するのに苦労しましたが、周りのサポートのおかげで、なんとかプロジェクトを進めることができました。
ステージが進むにつれてメンバーは10人、20人、30人と増え、研究内容も充実。普段は関わることのない、創薬の後半を担当する社員とも仕事をする機会を持てました。おかげで創薬の全体の流れを理解することができ、成長につながったと感じています。
今は、オンコロジー領域のプロジェクトを進めています。最近になって「ペプチドの技術を使うことでヒット化合物を安定的に取得できる」というステージに到達しています。これからプロジェクトとして次の段階に進めるタイミングが来ているので、ワクワクしています。
今はまだペプチド創薬およびその技術開発に関わる人数は少ないですが、今後いろいろなプロジェクトでペプチドのすごさを証明して、部署になる規模にしたいと考えています。実現できた時には、その中でリードできるような人材になりたいですね。
人を支える薬をつくるために。失敗の本質に迫りながら、一刻も早く研究を押し進める
私は仕事をする上で大事にしていることがあります。1つは、「失敗の本質に迫る」こと。
私は恩師である大学の指導教官に「失敗の本質に迫る」ことの大切さを教えてもらいました。結果を見て失敗か成功かを判断するだけでなく、この理由で失敗したと言えるところまで深掘りして考え、仮説を立てる。そして、その仮説検証を繰り返し進めていくことで、次にどう生かすべきかが見え、着実に研究を進めることができると考えています。研究は失敗の連続ですが、この失敗なしでは成功にたどり着きません。最終的な成功につながるよう、どんな困難な状況になってもくじけずに進んでいきたいです。
加えて、時間を大切にすることも大学の恩師に言われていたことですが、社会に出て身に染みて感じています。
たとえば入社した直後に取り組んでいたプロジェクト。長く取り組む前提で「この研究は来週やればいいか」と思うこともありました。けれど、1年でそのプロジェクトは終了。大学時代であれば自分の意向で研究を続けられたかもしれませんが、今は「これをやりたい」「あれをやりたい」と思っても、感情的なことは通用しません。この経験から、今関わっているプロジェクトもいつ終わるかわからないという気持ちで、1時間でも早く、一化合物でも多く研究材料を提供し、成果に近づこうと肝に銘じています。
私の一番の目標は、「人を支える薬を、自分の手でつくる」ということ。この最終ゴールに向かって、これからも全力で研究を進めていきます。
働いて感じる当社のいいところは、現場の若い社員が「このアイデアで何かやりたい」と言ったら、意見を否定する人はおらず、建設的な議論でしっかり向き合ってくれるところ。そして、みなさんの技術レベルが高いことも魅力です。
技術開発を止めてしまったらその時点で世界から大きく遅れてしまいます。たとえば1カ月止めただけでも、世界から大きく引き離されるのが現実です。新たな技術開発を続けるのは相当な苦労が発生するのですが、いつかは自分の技術がエーザイでは当たり前になる未来を夢見て、日々頑張っていきます。技術開発でしかたどり着けない景色が見られるので、興味を持って一緒に取り組んでくだされば嬉しいです。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです